一酸化炭素中毒と二酸化炭素中毒(酸欠)に関する検証

まとめ:編集部

一酸化炭素中毒警報器と二酸化炭素センサーを使用して実験

 毎シーズン各フィールドで発生する一酸化炭素中毒と二酸化炭素中毒事故。特にテントを締め切った状態でガス燃料の暖房をつけ換気をしないと起こりやすく、最悪死に至る。どちらも無色透明、無味無臭のため、音もなく忍び寄る怖い有毒ガスだ。楽しいはずの釣りに行って悲しい事故に遭うなんて誰も望まない。しかし、実際に事故に遭った人達もまたそう思っていたのである。これ以上同じような人が増えないように…と願い、編集部では実際どのような状況でそうなるのかを検証を行った。

◎一酸化炭素中毒


 一酸化炭素は空気より軽い有毒ガス。ワカサギ釣りをする人なら「怖い」「なりたくない」「とにかく換気する」「死ぬこともある」と、漠然ではあるが危険なものという認識はあるはず。しかし、実際どのくらい恐ろしいのかは知らない人のほうが多いはず。
 ここで大気中の一酸化炭素濃度(ppm)と吸入時間を基準に主な症状を抜粋すると(日本火災学会発表)、
・200~300ppm/5~6時間→頭痛、耳鳴りなど
・300~600ppm/4~5時間→激しい頭痛、嘔吐、運動機能を失うなど
・700~1000ppm/3~4時間→意識障害など
・1600~3000ppm/1~1.5時間→心機能低下、時に死亡
・5000ppm以上/1~2分→死亡
※一酸化炭素は体内のヘモグロビンと結び付きやすく、なかなか体内から排出できないため、治療を行ってもなかなか回復しづらい特徴もある。
 となっており、非常に恐ろしいものだということは分かる。

◎二酸化炭素中毒(酸欠)


 「え、一酸化炭素中毒の間違いじゃないの?」という人も中にはいるかもしれないが、別物である。空気より重く、普段も空気中に0.03%存在し、一酸化炭素ほど毒性は強くないが、閉鎖的空間でガスなどの燃料を燃やせば、当然ながら空気中の酸素も減っていき、二酸化炭素が増加する。いわゆる酸欠となるわけだ。「不完全燃焼さえ気をつけていればいい」なんて考えは超危険だ!
 同様に大気中の二酸化炭素濃度(ppm)と吸入時間を基準に主な症状を抜粋すると、
・10,000ppm→不快感
・40,000ppm→めまい、頭痛
・60,000ppm→呼吸困難
・70,000ppm→数分で死亡
 となっている。一般には一酸化炭素中毒よりは症状が軽く済むことが多いが、それでも濃度によってはこちらも死に至ることがある危険なものであることが分かる。あくまで推測であるが、この数年起こっている中毒事故は幸い回復に向かっているところを見ると、一酸化炭素中毒ではなく、二酸化炭素中毒の可能性が高いだろう。

◎実際どのくらいの数値!?


 じゃあ実際にワカサギ釣りでガス系燃料の暖房を点けたシチュエーションでは両方の濃度はどのくらいになるのだろうか? 一酸化炭素中毒の警報器はネットショップなどで気軽に入手できるようになったが、それでも持っている人はまだまだ少ない。そこで、編集部では次のようなシチュエーションで一酸化炭素、二酸化炭素の上昇実験を行った。
・1人用テントを雪上に張り、雪で囲った
・入口や換気口などは全て閉じた
・雨などは降っておらずやや風がある状態
・カセットボンベタイプの暖房(ユニフレーム「ハンディガスヒーターワームⅡ」)を完全燃焼させた
・一酸化炭素中毒警報器を使用
・二酸化炭素中毒警報器は市販されていないので、室内の快適性を計るための二酸化炭素センサーを使用
 測定結果は表、グラフの通り。これらを含めて分かったことは以下の通り。

暖房器はガスボンベ式を使用した
一酸化炭素と二酸化炭素の濃度


1.二酸化炭素はすぐに数値が爆上がりする
 当然といえば当然だが、暖房を点けた瞬間に数値が上がり、ものの10分でセンサー上限値の5000ppmに達し、以降測定不能となった。ただ、この時点ではまだ不快感レベルの半分の数値なので危険な状態ではないと推測される。
2.開始から約1時間経つと、暖房器のバーナー部が赤から黒へ
 完全燃焼していれば、バーナー部は真っ赤になるが、黒いということは熱が下がり不完全燃焼の証。空気中の酸素がなくなったため、不完全燃焼となった、つまりこの頃から一酸化炭素が発生し始めたと考えられる。
3.約1時間半後、警報器が一酸化炭素を感知
 それまでは何も表示されていなかった一酸化炭素中毒警報器が突然61ppmを表示した。警報器の機能上、50ppm以上にならないと表示されないため、それまでも徐々に上昇していたと推測される。
4.開始から1時間57分、一酸化炭素中毒警報器が警報アラームが作動
 警報器の機能により、50ppm以上を連続1時間感知したことで警報アラームが鳴り始めた。
5.開始から2時間11分、一酸化炭素中毒警報器が200ppmに達したが、その5分後からやや下降し、170ppm程度で安定した
 そのまま上昇し続けると思ったが、テント上部の隙間などから一酸化炭素が抜けていったと推測される。これは安全ということではなく、テントの素材、雨や雪、結露などの状況によっては密閉度が変化するので、場合によっては上昇し続ける可能性がある。また、換気の効果がいかに高いかも分かる。

◎総括


 燃料系暖房器は完全燃焼させれば確かに一酸化炭素が発生しないが、換気をせずに酸素量が減っていけば、やがて不完全燃焼を起こし始め、一酸化炭素が発生する。この展開をワカサギ釣りに当てはめるなら、釣りをしているうちに眠くなり、換気も面倒になって完全に爆睡。軽い二酸化炭素中毒にかかりさらに眠くなり、そのまま目を覚まさないうちに暖房器が不完全燃焼を起こして知らないうちに一酸化炭素中毒に陥る…ということも十分あり得る。
 そんな最悪の展開にならないためには、
・完全燃焼と換気は最低条件
・普段から換気口(上部がベスト)を開け、眠気が強い時は多めに開ける
・一酸化炭素中毒警報器を持つ(過信は禁物)
・なるべく単独行動をしない
・テントが別の時は換気も兼ねて定期的に訪問する
 と、これらの通り、とにかく「換気」が大事だ。岩手県岩洞湖のように極寒の地だとどうしても暖かさ優先で換気を怠ってしまいがちだが、比べるのは暖かさでなく「命」。いつまでもワカサギ釣りが楽しめるよう、今一度自分自身に油断がないか振り返って頂きたい。

漁協でも注意を呼び掛けているが、自分で気を付けるしかない
テント訪問はお互いに換気、安全確認、釣況リサーチを全てできるのでメリットだらけ!

WRITER

釣り東北WEB編集部

株式会社釣り東北社

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「釣り東北WEB」の運営、取材、撮影、編集、映像制作をメインに行う。他、ワカサギの穴、トラウトステージといった東北で人気ジャンルの別冊を刊行。

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