冬の釣りを100%楽しむ「レイヤリング」システムの基本

解説/佐藤浩二

今年は暖冬傾向にあるといえ、まだまだ東北の冬シーズンは続きます。やはり冬の釣りは防寒対策をできているか、そうでないかで快適さや楽しさが変わってきます。本稿では釣りである意味「タックル」といって過言ではないウエア・防寒着に関して触れてみたいと思います。

なぜウエアでなくタックルなのか?

筆者の生業で「登山ガイド」という側面を持っております。今回、ウエアに関してその世界のメソッドも踏まえて進行しますが、登山も釣りも「アウトドア」ジャンル。そして意外かもしれませんが、どちらも「水」を始め数多の自然条件を切っても切り離せない共通することが多いのです。だからこそ単なる服装(ファッション)以上に、大袈裟かもしれませんが「生命を維持」するための道具、すなわち「装備」として、タックル、あるいはギアという認識であることを念頭に置いて選択、着用することを意識して頂けたら幸いです。

鉄則を知ろう!

アウトドアでのウエアで何万円もする高性能ジャケットの上下を着用したとしても、内側での組み合わせ次第で、まるっきり外殻の見栄えだけで性能が100%損なわれるor無意味になってしまう場合が多々見受けられます。このような組み合わせを「レイヤリング」と呼ばれますが、そのレイヤリングまず鉄則として知っておきたいことがあります。

その鉄則というが第一に「綿(コットン)成分の完全排除」です。※稀でありますが、麻も混合される場合がありますが麻も同様。これらで言えることは植物繊維由来の素材を避けることにあります。

ウエアのタグに生地の組成内容が記載されていますが、そこに「ポリエステル70%綿30%」と表記されていたとします。こう見ると化繊が大半を占めるので大丈夫だろう…と思われがちですが、その綿が30%含まれることで防寒や耐水の性能の30%が損なわれると思っても過言でありません。また「ポリエステル60%ナイロン25%綿5%」とあるとしましょう。それでも綿という文字があるならば5%だろうと回避してもらいたい…そこまで徹底してこそ厳冬期でのアウトドアでの快適性が確保できる道筋になります。 

そして、次の鉄則が「重ね着」の方程式を知ることにあります。これを昨今では耳馴染みある言葉になりますが「レイヤリング」という言葉で総称されていますね。これは下から ベースレイヤー/肌着、ミドル(ミッド)レイヤー/中間着、アウター(シェルあるいはジャケット)レイヤー/上着と3つのセクションで構成されるのですが、それらを更に補うべく頭部や首回りにバラクラバ(目抜き帽)やネックウォーマー、手首に手袋やカフ、そして当然ながらの靴下あとは裏技で使い捨てカイロなどで固めて万全の体制となるのですが、先の解説で化繊であればベターな感じで記載しましたが、化繊でも極力「レーヨン」も避けて頂きたい面がございます。

常にドライであれ!(ベースレイヤー)

とにもかくにも汗を大敵としましょう! しかしかいてしまった汗はどうしようもありません。ではどうするか? それは勿論、ベースレイヤーにしっかり吸ってもらいましょう!

ポリエステルやポリウレタンなどの素材は汗を吸収しても外に排出する(排出先は次に触れます)性能に長けます。しかし物理的には濡れている事実からは目を背けることができません。そこで自分の肌の感覚をある意味では「騙す」ことで濡れている感覚から無自覚にさせる素材性能それが「ドライ」感を伴う性能のベースレイヤーを選択することです。

この「ドライ」感、汗を感じさせないことというのは人間の感覚というのは面白いもので、冬は暖かく、夏は涼しい(俗にいうサラサラ感というものです)というと語弊がありますが、単純?というかいとも簡単に騙される感覚なのです。実はこの「ドライ」が一番重要で、その感覚があってこそ不快感や冷えというメンタルから起因する辞退も回避する重要な役割を担うものであります。

素材性能も当然ですが、素材の処理にてメッシュ素材、エンボス(起伏)加工、中空繊維での軽量および嵩を増しての肌さわりなど…各メーカーが色々な特色のベースレイヤーをリリースしております。

実は一番忙しいミドルレイヤー

アウトドア全般で一番の要になるのが実はミドルレイヤーになります。

出典:シマノ「オプティマルジャケット

先で触れたベースレイヤーから放出された余計な熱、水分を自身で経由させて発散させつつ、アウターから伝わる冷気を遮断という対極の熱を処理します。例えば動いて暑くなった、あるいは季節外れの陽射しが急に出て陽光で暑くなってきたなどでアウターを脱いだ際に微妙な気温の中でのアウターと成り得ます。実は肌に密着するインナー、外装として雨風を遮る、人の目に触れるということでファッション性も重視という観点から、インナーやアウターが重要視される傾向にありますが、筆者的には実はミドルレイヤーこそ一番重要視してほしいセクションであると感じております。

また、意外に中間着は厚着モコモコ系になりがちでありませんか? これが実は冬の服装で一番ネックになる問題でありまして、ミドルレイヤーは繊維性能も然ることながら動きやすさもインナー、アウターより一番に重視してほしいと思います。

風雪にも耐え、岩にも耐えて(アウター)

実は冬で雪という場面で、ギッシギシに冷え込んだ空気での粉雪、サラサラの雪であればアウターにとっては性能を圧迫するような過酷な状況下でないといえます(人間にとっては過酷ですが…笑)。釣りで特に船や磯、サーフなど沿岸部は比較的に暖かい傾向で雪も湿り雪、濡れ雪に加えて強風、そして波しぶきなどがミックスされる!いや塩分も加味されるとなると相当にタフなコンデションと言えると思います。そして更に岩場やコンクリ―ト、船ではブルワーク(へり)に擦り当てたりなど、当にその状況下ではむしろ東北の厳冬期2000mレベル氷稜を伴う登山にも匹敵するような過酷なコンデションに酷似しているといっても過言でありません。

どのようなシーンで使用するかを想定し、店頭で素材性能表記のみならず質感、色合いなどを実際に確かめて試着して選択することをお勧めします。そしてカラーはできれば超ド派手な色でお願いします。万が一の危急時に遭遇してしまい、最悪、捜索という場面になった場合、岩場であろうと洋上漂流の場面にてでも、まずは「目立つ色」これが見つけてもらうための絶対条件です!

プラスアルファも忘れずに

手袋、帽子、ネックウォーマー、そしてバラクラバなど併用し、隙間や露出部分の寒気シャットアウトをして万事OK!といきたいところでありますが、実は末端部からの冷え込みというのが曲者でして、特に足元の指先からの冷えを防止するべく、よくネオプレンソックスを履くシーンを見受けます。しかし、こちらも最初は暖かいのですが、内部で身体からの水蒸気(水分)が飽和すると一気に冷えが猛襲してきます。でしたら、むしろウールや先に触れたベターな化繊を用いた厚手の靴下を用いたほうが良いですね。


またカイロを併用することもお勧めです。最近では電池式ヒーターのベストやジャケットなどが見られますが、やはり水と密接な領域での使用になるので、故障などのアクシデント、最悪、感電などのトラブルも懸念されますので使用はお勧めできません。あと意外にもライフジャケットやフローティングベストも防寒着、風を遮断するベストとして捉えることもできます。夏場は自動膨張式のウェストタイプという方でも冬場はフロートタイプのベストタイプを用いることによって防寒対策の一つになりますね。

出典:シマノ「防水グローブ
出典:シマノ「フェイスウォーマー

タックルなのです!手入れも必須です!

先で触れたウエアとしてでなくタックルの認識になる理由の一つが、「メンテナンス」の必要性にも注意を払って頂きたいことにあります。

最たるは「洗濯」となるのですが、生地、それらに施された性能(撥水性や補強などのコーティングなど)を損なわず長きにわたり維持する上で一番、無視してはなならいことがタグに記載されている洗浄方法の表記です。それらをしっかり守った上で洗濯をし、しっかり汚れを落とした後に撥水処理などアフターケアを施すことも防寒対策に大きく繋がることをお忘れなく。

WRITER

佐藤 浩二

日本山岳ガイド協会認定 登山ガイド[ステージⅡ]

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登山ガイドの傍ら渓流釣ガイドを展開する。北東北の民俗学、風習にも造詣が深い。

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