佐藤偉知郎STYLE繊細なるビッグベイトゲーム「海峡真鯛・厳冬編」

青森/編集部

 絶えず風が吹き荒れる、本州最北西部・青森県竜飛崎。観光客の間では「風の岬」と呼ばれ、そのモノトーンの風景に最果ての地に来たようなどこか物悲しい気持ちにさせる。

しかし、その沖は暖流と寒流がぶつかり複雑な潮流を成し、様々な大魚を育む有数の漁場であり、釣り人にとっては夢多き、熱きフィールドだ。その大魚の代表といえばなんといってもクロマグロだが、同魚のカリスマアングラーとして知られる、弘前市在住の佐藤偉知郎氏にとって同等の魅力を感じているのがマダイ、通称「海峡真鯛」だ。

その魅力は、すでに公開されているバリバスTVの「佐藤偉知郎と津軽海峡に潜む巨大マダイを狙う![海峡真鯛チャレンジ]」で十分感じられるが、そのシーンはあくまで一片でしかない。しかも同動画を撮影したのは夏だが、偉知郎氏は「海峡真鯛の真骨頂は冬にある」と語る。その理由を知るべき、連日荒れ狂う同地の海の間隙を縫い、偉知郎氏の釣行に同行した。

海峡真鯛のタックル「冬仕様」

 同地の真鯛シーズンは4~1月。中でも極寒の12月は越冬に備え最後の荒食いをすることで、パワーとスタミナはシーズン中マックスとなり、見た目的にも厚みが増した非常にコンディションの良い魚体となる。当然ヒットしてからの引き応えはすさまじく、最後の最後まで抵抗を止めない。海峡真鯛の名は、クロマグロのように船で追いかけないと獲れないような大型もいる所以であるが、冒頭の偉知郎氏が「真骨頂は冬」と語った理由はここにある。

魚体の厚みと力強い尾びれ。その運動能力の高さを感じる魚体

ロッド
 激流の中から真鯛をある程度強引に浮かせるパワーといなし効果が重要視される。偉知郎氏はこの海峡真鯛用に設計したソウルズ「タイブレイクSF-TB60LC」をメインで使用している。根掛かりや真鯛が掛かった時にはかなり強引な巻き上げ、リフトアップ、激しく煽るといった瞬間的、かつ高負荷がかかるが、同ロッドはびくともしない。

強靭な運動能力を持った海峡真鯛に対応するタックル

ライン
 冬の海峡真鯛ではメインのPEラインは1.5号が基準で、偉知郎氏はバリバス「アバニ ジギング10×10マックスパワーPE X8」1.5号(28.6Lb)・300m巻きを使用している。

通常のタイラバタックルでは0.8号前後が多用されることから、中には「オーバースペックでは?」と思われる方もいるかもしれない。これは実際にやってみれば納得できることだが、「ドラグを効かせてやり取りすれば獲れるだろう」なんて思っていると、激流と根荒な条件下では中型でさえ獲ることは難しい。80~90cmの特大サイズとなれば結果は言うまでもないだろう。

 というよりも、魚とのやり取り以前に釣りにならないといっても過言ではない。いかに気を付けていたとしても軽度~重度問わず根掛かりを起こしやすく、まして使用するタイラバも重いので、通常のライン設定では根掛かりを外せるだけのテンションをかける前にメインラインから切れる可能性すらある。もし、100mラインが出てから高切れし、予備もない…なんてことになれば最悪だ。

 また、船がどんどん流される状況で根掛かりを外すにはライン角度ができるだけ立っているうちにロッドをあおる、あるいはドラグ(スプール)をロックして強く引くなどの対応をいち早く行うことが重要になる。

例えば多少メインラインが船底などに触れそうな不利な状態であっても「ためらいなく瞬時に行える」余裕が必要となる。まして冬季は、極寒でガイドが凍ることや、波の高いラフコンディションであることなど季節的に過酷なことから、トラブル対応重視で1.5号一択となる。

冬の激流なら1.5号一択!

リーダーは12~20Lbを使い分ける

・絶対に高切れしない設定
勿論高強度なメインラインを使用したとしても根掛かりが外れなければ高切れする可能性はある。この対策として、偉知郎氏は絶対に高切れしないラインステムを取り入れている。

まずリーダーにはメインラインよりも強度が低いバリバス「ショックリーダーフロロカーボン」12~16Lb・1ヒロを選択し、かつ結束強度が強過ぎないフィッシャーマンズ系のノットで結束している。この先にスナップスイベルをダブルクリンチノットで接続し、20~25Lb程度の先糸付きのタイラバをセット。

これによって、激流から特大真鯛を強引に浮かすためのパワーを保持しつつ、根掛かりが外れない時には通常はあえてファーストウィークポイントとしたリーダーとスナップの結束部付近で切れてくれる。万が一、そこで切れなくてもPEとリーダー結束部などのセカンドウィークポイントで必ず切れるので高切れはまずしない。

また、先糸の部分も根に擦れてボロボロになり交換が必要な時はスナップ部から交換できるので、真冬の揺れる船、かつ手がかじかむような状況でもスムーズに復活できる。

意図的にウィークポイントを作るが、激流から大型を浮かせるだけの強度はキープする

タイラバ
 一般のタイラバゲームとは一線を画すほどのボリュームがあり、ルアー的にいうといわばビックベイトスタイルといっても良いだろう。これは大型のコンディションの良い個体に対し、これは激流、かつ根荒な地形の中でも確実に見つけてもらうことと、いざ掛けたその魚を激流の中から強引に寄せる際にパワー負けしないような大針仕様のフックシステムとのサイズバランスも考慮している。

 タイラバは250gがメインとなる。重さ的にタングステンの物を使用したくなるところだが、前述した通りタイラバの存在を真鯛に知らせるかが重要のため、タングステンではなく鉛製のシルエットの大きなタイプが望ましい。勿論250gのタングステンともなればかなり高価で、かつ根掛かりも起きやすいので、比較的安価な鉛性を使用すると言うのもある。

 トレーラーについては、通常タイラバではスカートやネクタイが用いられ、近年のスタンダードとしてはネクタイを外したようなかつスカートが少ないフィネス系が多用されているが、偉知郎氏はヘッドと同じようにボリューム感を大事にしているため、イカタコ系のワーム素材のものをオリジナルのフックシステムでセットしている。ヘッドとこのトレーラーによってまさにビックベイトの存在感である。

 以上の内容を聞くと、一見大味な釣りと思われるが、実際は非常に繊細な釣りを求められる。

両手で持っても存在感のあるビッグベイト

海峡真鯛のスタートライン

・根掛かりさせない
 海峡真鯛は、たとえるなら大谷翔平選手のような圧倒的な運動能力があり、エサとの遭遇率が高い激流&起伏の激しいエリア内のピンポイント的な緩流帯に潜む。

そのポイントへ的確にアプローチすべく、底から真鯛が反応するタナ(高さ)の間を、根掛かりを回避しながらタイラバ的なアピールを繰り返す。激流の中でどれだけこの精度を高められるかがこの釣りの1つカギとなる。

 実際には、窪みの奥にタイラバが落ちる、根の真上に当たる、複雑な潮流によってタイラバが根に当たるよりもラインがはらんで先に根に触れる、タイラバを巻き上げている途中でラインが根に擦れるなど、常に根掛かりのリーチがかかった状態といっても過言ではない。

ゆえに、スプールの回転が止まる、緩む、穂先が軽くなる、ラインのテンションが変わるなどの微細なサインによって着底を瞬時に把握し、それとほぼ同時にラインを出し入れして根掛かりを未然に回避していく。

 また、激流は1枚でなく、2枚潮や3枚潮の複雑な流れになっており、物理的にラインがたわみ、情報伝達が鈍りがちなので、着底感が少しでも曖昧なら深追いせずすぐ巻き上げて根掛かりを未然に回避したほうが良い。

 慣れないうちはこの変化を捉えられないどころか、激流ゆえにタイラバが着底してからもラインが勢い良く出ていくので最初の着底すら気づかない時もある。とにかくあらゆる変化に集中し、先手先手で対応したい。

基本は巻くだけながら集中すべき要素は多々ある

・イメージ力
 その根掛かりさせないことも地形や海中での仕掛けの状態などどうなっているかイメージ力が要求されるが、よりヒット率を高めるには真鯛がどのような状態でエサを待っているのかを察知しなくてはならない。

 ここで重要になるのは潮流と船の流される方向・速さのバランス。前述したように同地の潮流は2枚潮、3枚潮は当たり前の複雑な潮流となっている。

船の流され方、風向き、海面のざわつき、仕掛けが戻ってくる方向、ライン角度、巻き抵抗などの情報を基に、真鯛のタナではタイラバがどういう向きになっているのか、どう泳いでいるのかを想像しつつ、当日の真鯛が食いやすいパターンを見つけていく。

これはリールを巻くスピードとタナの上げ幅の調整に集約されるが、時にはリールを巻かないほうがヒットしやすいこともある。

とりあえず根掛かりさせなければヒットチャンスは生まれるが、それだけではヒット率を上げることは勿論、この釣りの楽しさも知ることはできない。

大胆、豪快にして繊細。イメージ力も欠かせない

令和5年12月4日、厳冬釣行!

暖冬とはいえ、11月の後半から竜飛の海は西系の風が吹き荒れ、相変わらずのシケ続き。それでも令和5年12月4日にようやく出船のチャンスに恵まれた。偉知郎氏は、当日午前9時、小泊港から「第三十八齋勝丸」に乗り、海峡真鯛の待つ竜飛沖へと船首を向けた。

マグロ漁船と雪景色の北海道

 久しぶりの出船とあっていつにも増して期待は高まる中、250gのタイラバをセット。水深50~70m付近を何度か流すが、釣れるのはウッカリカサゴ、キツネメバル、タヌキメバルと根魚ばかり。時折巻き上げ中に真鯛のようなガツというバイトもあったが、活性が低いのか追い食いしてこない。

「潮止まりの時間帯とはいえ、タイラバの巻き抵抗が弱く、明らかに潮が効いていない。竜飛沖でこんな状況は珍しい」と偉知郎氏。

それでもこういった渋い時間に可能性がある、底から5mの範囲をせわしなくボトムタッチと巻き上げを繰り返すベタ底狙いを徹底していると、鋭い走りでドラグを鳴らし、時折叩くようなこれまでとは明らかに異なる引きの魚がヒットした。

「これは真鯛だ!」と確信を持ってリフトアップすると、この時期特有の銀色が強い真鯛が水面に浮いた! サイズは60cm前後の良型で「夏の個体と魚体の厚みが全然違うよね!」と満足気な偉知郎氏だった。

強烈な引きにこの表情

この1枚を皮切りにコンスタントヒットモードへ突入

竜飛沖は魚種が多彩で濃い。なんと同じタイラバにヒラメとソイが同時ヒットのミラクル!

この頃から南西系の風が強まったことで真鯛の食いが回復。また1枚目のヒットパターンが目安となってそこからコンスタントに釣果を重ねた。

それにしてもどの個体もサイズ的には大谷翔平選手とはいかないが、吉田正尚選手のようなマッチョボディーの惚れ惚れするような魚体ばかり。偉知郎氏は「上~中層で大型が爆裂するのが本当の冬の海峡真鯛。ただ、海に出られる運があっただけ良しとしなければならないのも冬の海峡真鯛。冬の爆釣は次にとっておこう」と締めくくった。

ネットインまで気は抜けない

見るからに引きそうな魚体。釣った感もマックス!

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釣り東北WEB編集部

株式会社釣り東北社

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「釣り東北WEB」の運営、取材、撮影、編集、映像制作をメインに行う。他、ワカサギの穴、トラウトステージといった東北で人気ジャンルの別冊を刊行。

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