決勝戦!
準決勝の結果、2024年キスマスターズの頂点には、高井純一選手と水上明選手のいずれかが輝くことになった。その決勝戦を前に2人並んで健闘を誓い合う。
決勝戦の競技エリアは大会本部前の約200m区間で、ダイワスタッフによる試釣を除いて2日間、ここでは誰も仕掛けを通していない手付かずの場所で、言わばノープレッシャーの状態で保護されてきたゾーンである。
ジャンケンで勝った高井選手は、エリアのやや左側に釣り座を構え、戦投開始の時を待った。対する水上選手は左の旗と高井選手の間にクーラーを置き、仕掛けの準備を始めた。
やがて8:30を迎え、いよいよ決勝戦のスタート。大会規定でエサ付けは競技開始の合図があるまで行ってはならない。ここで目立ったのは、高井選手の自称「爆速手返し」の技だった。
ロッドを右腕で支えてオモリのウエイトを活用し、ミキ糸のテンションをキープしながら、エサ付けしやすい手元の位置に針が長さを調節するスタイル。30本針仕掛けでも動かずにエサ付けを完了させるテクニックは、開始早々から見る者の目を奪った。
対する水上選手は、開始直前にスタミナ補給を行ってリラックス。緊張感ではち切れそうになる心を静めているように見えた。そして最初は7色付近までキャストし、準決勝で良型サイズが掛かった沖目のポイントを狙う作戦に出た。
序盤は大接戦
水上選手の位置取りについては、高井選手の状況を確認しながら進めたいという気持ちと、旗際までの距離が十分なスペースだったこともあっての選択のようだった。
12cm前後の小型中心ながらも、水上選手は連掛けに成功し順調なスタート。続くキャストも沖目までオモリを届けていたことから、どうやら同じ作戦を継続するようだ。
移動で勝負!
高井選手は1投目から軽めのキャストで4~5色付近を狙う作戦に出ていた。これは前日のうちに考えていたようで、夜中に風が弱まって凪になり、濁りや波が収まってくれるだろうと読んでいた。そのため、小さい魚でもアタリを逃さないよう、ロッドは軽くて感度の良い「マスタライズキス」の25号をチョイスしていた。
陸側から見るていると、高井選手には単発でキスが掛かるもののサイズがイマイチ。そんな状況に「移動するか?」「今がそのタイミングか?」状況判断に迷っているように見えた。
しかし、次に仕掛けを回収し始めると、海中に沈んでいた木の枝を拾ってしまうアクシデント。さらに波打ち際にあって砂に埋もれていた枝に針が引っ掛かり、高井選手に追い打ちをかける…。
この僅かなタイムロスをきっかけとして、高井選手はクーラーを担いで移動した。高井選手は準決勝でも小移動を繰り返して勝ち上がっており、最初から移動を前提としていたようだった。
気持ちは同じ
両選手の間隔が空いて、1投毎の釣果を正確に視認するのが難しくなってきた。仕掛けに白く輝く魚が見える程度で、何となく匹数こそチェックできるが、「サイズはどの程度なのか?」「そもそもその魚がキスなのか?」「違う魚種なのではないか?」そんな不安と疑問を抱きながら釣りを展開しているのは間違いない。
その証拠に、2人が相手を「ガン見」する回数が激増していた。
対照的な戦い
9:15を過ぎて決勝戦は後半戦に突入した。この時点で審判が記入している匹数チェック表を見ると、僅差ではあるが高井選手の匹数が上回っていた。
しかし、新チャンピオンの座はキスの総重量で決まるわけで、匹数はあくまでも目安。肝心なのは良型キスがどれだけ交じるかに掛かっているのだ。
そんな時、これまで素針を1度も引いていなかった水上選手だったが、初めてキスの姿を見ないまま仕掛けを回収することになった。エサ付けをしながら決断したのか、スッと立ち上がるとクーラーを担いで10数mほど場所を移動、そしてこれまでと同じような距離を探り始めた。
水上選手のサビき方は独特で、リールハンドルを半分から4分の3回転させては巻く手を止め、オモリ側に近いツケエサを躍らせて、近くにいるキスに発見させやすくするという技術を繰り出していた。この誘い方を「ショートピッチサビキ」と編集部は勝手に呼んだが、ジギングなどで使うテクニックでもある。
そして移動した最初の1投で、水上選手はこれまでよりも早く仕掛けを回収していた。おそらく狙っていた沖目の距離で、良型のキスが掛かったのだろう。案の定、その際に波間から姿を現したのは良型キスだった。
予選リーグからの2日間は、5cmクラスのマイクロピンギスサイズが多く、15cm超えが大型のキスに見えてしまうほどの釣況だった。しかし、この1投で水上選手は重量を稼げるサイズを4匹ゲット。この時点で総重量を一気に伸ばし、頂点に片手が差し掛かったかと思われた。
その釣果を知っているかどうかは不明だが、高井選手の目には「たくさん釣れた!」と映っていたようだ。しかし、この時間帯から陽射しが強くなるにつれて、陸風から浜風に変わり海面がザワザワとさざ波が立つようになってきた。
同時に、それまで4~5色付近でキスを掛けていた高井選手は、徐々に魚影が薄くなってきたと判断。試しに1~2色の近めの距離を攻めてみることにした。この判断が優勝の行方を決めることになるとは、高井選手本人も想像だにしなかったことだろう…。
爆速手返し炸裂!
編集部は大会前、桂浜でプラクティスを行った選手から、3色付近に大きな浅瀬があり、その奥側の4~5色付近と、手前側の1~2色付近でアタリが頻発することを取材していた。この決勝戦の海は前日よりも海が落ち着いて、手前の近い距離にもフレッシュな魚が戻り、回遊し始めているのではないかと想像していた。
そのため、高井選手が1~2色に狙いを定め、しかも小さな移動を繰り返す作戦に出たことが大きな分岐点になるとの予感が働いた。高井選手の戦略は、①1~2色付近を集中して狙う。 ②探る時間が短くタイムパフォーマンスが良い。 ③「爆速手返し」のパターンに当てはまる。つまり、自然に自分の得意な釣りになっており、実力をフルに発揮できる状況に自らを仕向けていたことになる。
試しに近投してアタリを待つと、毎回キスが掛かってくる。4~5色付近を狙っていた時よりも効率がメチャメチャ良い。まさに「爆速手返し」が炸裂していた!
後半には良型交じりの5連が掛かり、後退しながら取り込んでいたところ、クーラーに足が引っ掛かり背中から転倒するハプニング(笑)。当日ライブ配信されており、その模様が映っていたかどうかは定かではないが、会場には観戦者からの大きな笑い声が響き渡った。ムックリと起き上がった高井選手は恥ずかしそうに照れ笑いの表情を見せながらも、競技終了時刻まで冷静に釣果を伸ばしていった。
嬉しくないゲストが…
デッドヒートの闘いを有利に進めていたと思われた水上選手。しかし終盤になってまさかのゲストに見舞われた。竿先が引っ張られながら仕掛けを回収する光景は、見るからに青物系ではないかと想像することができた。針に掛かっていたのはナイスサイズのアジ。プライベートなら大喜びでキープするのだが、ここでは招かれざるゲストだった。
ラスト1投、ラスト1秒まで、4~5色に絞ってアタリに集中した水上選手。対する高井選手は小さな移動を繰り返し、最後は至近距離を攻める作戦に切り替えた。そして10:00となり、今年の決勝戦はタイムアップを迎え、検量に向かうこととなった。
2人の検量が終わり、最終結果は次の通り。
【高井純一選手】390g
【水上 明選手】315g
ダイワ「キスマスターズ2024」全国決勝大会の栄冠を手にしたのは高井選手!
表彰式
優勝した高井選手、準優勝の水上選手には、2025年「キスマスターズ」全国決勝大会へのシード権が与えられ、第3位となった穴田選手、角張選手はブロック大会2回戦から参戦するシード権を獲得した。
高井選手のコメント
『3年連続出場で達成できて嬉しいです。』『まだ実感がないです。』『来年は頑張った責任があると思っています!』と、控え目ながらも弾けるような笑顔が嬉しさを表していた。
また、『桂浜はかなり釣れる場所だと聞いていたので、厳しい釣果だったのは残念だが、遠投だけでなく近投も含めたスキルが求められる浜だと感じた』ともコメントしてくれた。
【プチ情報】
①使用したエサはジャリメ、アオイソメ、チロリ。小型のキスはジャリメ、良型にはアオイソメが良かった。チロリは両方とも反応が良かった。
②針数は最初から最後まで10本。釣況が良ければもっと増やしていた。
③決勝では相手を意識し過ぎないよう、水上選手から徐々に離れるように移動したのが良かった。
④予選では勝利の女神(女性審判)が微笑んでくれた!(笑)
水上選手のコメント
『十分に楽しめました。』『自分の釣りを展開できました。』『来年もまた頑張ります!』と満足感に満ちたコメントを寄せてくれた。
優勝と準優勝の差は僅かに75g。もしかすると「あと2匹良型サイズが交じっていれば…」「あの時アジが掛からずにキスが釣れていたら…」などと考えたくなるが、準優勝を飾った水上選手はそのような感覚は持ち合わせておらず、晴れ晴れとした表情が印象的だった。
感想
こうしてダイワ「キスマスターズ」2024は幕を閉じました。前日までの悪条件の中、選手の皆さんは日頃から研いたスキルを如何なく発揮し、厳しいながらもキスを掛ける「技術」「ロジック」そして「魂」を披露してくれました。遠距離の移動、楽しい空気の創出、真剣なバトル、審判や観戦者への暖かい応対など、感謝の言葉しか見つかりません。本当にお疲れ様でした。そしてありがとうございました。
そしてキスが沢山釣れる環境であるにも関わらず、キスの投げ釣りがメジャーな存在ではないこの秋田の地で、全国大会を開催して頂いたグローブライド株式会社様には心から感謝を申し上げます。また、約1年前から企画や準備を積み重ねて頂いたスタッフの皆様、選手に最高のステージで戦って欲しいとご尽力下さった大会役員の皆様、心より感謝の意を申し上げます。
キス釣りの魅力を広く伝え、投げ釣り文化の裾野を拡大して後世に残すためにも、編集部も微力ながら協力して参りますので、今後とも宜しくお願い申し上げます。