「3連しか考えていない!」
2024年9月5日(木
)、ダイワ「キスマスターズ」全国決勝大会が開催される秋田市桂浜で、編集部は大会2連覇中の清水浩之選手の独占密着取材をすることができた。清水選手と編集部は、2007年のダイワ「スーパーバトルカップ」全国決勝大会で選手同志として初めて対面していた。しかし、その時は両名とも初出場の舞台で共に釣果に恵まれず、悔し涙を飲んでいた過去があった。
そんな清水選手は実力を伸ばし、2022~2023年の「キスマスターズ」を連覇中と実力を発揮。今回の取材で桂浜で再会するや否や、「3連覇しか考えてませんよ!」と明るく挨拶をしてくれた。
続いて取材に入ろうとすると、エサが大量にあるので一緒に竿を並べようと誘って頂き、想定外の実釣同行スタイルで取材がスタートした。
こだわりのストレート天ビン
キス釣りトーナメンターの多くは、感度を重視している。その最も重要なファクターはロッドではなく天ビンであると清水選手は語る。清水選手が愛用している天ビンは、いわゆるストレート型。
一般的なL字型タイプの天ビンと比較すると、この天ビンの最大の特徴はミチ糸と仕掛が一直線上になっていることで、ストレートかつダイレクトに振動が伝わり、小さなピンギスの微かなアタリでも確実にキャッチすることができる。これに軽めのシンカーやフロートタイプのを組み合わせることで、その効果は増幅する。
仕掛け側には形状記憶合金を採用しているが、空中の飛行時に仕掛けが空気抵抗を受けることで、アームに適度な曲がりが発生し、仕掛け絡みを防止してくれている。これは素材の太さ、長さ、全体のバランスなどの調整を、失敗と工夫を積み重ねて完成させたものだ。
必殺オリジナル仕掛け
トーナメンターが最も意識しているのは、仕掛けではないだろうか。市販の50本連結タイプを使用する選手も多いかもしれないが、圧倒的に仕掛けを自作する人が多く、そのコンセプトにはその人の積み上げた経験とイマジネーションが込められている。
清水選手の仕掛けはご覧の通り、派手な仕掛けだった。特に注目すべき点は、全部同じ装飾パターンではなく、1針毎にカラーやパーツが違っていることだ。
トーナメンターの中には「シンプルイズベスト」と考え、集魚パーツを全く使わない選手も多い。その理由は本命のキスよりも、エサ盗りの厄介なフグを集めてしまうという考え方に基づいている。場合によっては、フグに全てのハリスを噛み切られ、回収した仕掛けに針が1本も付いていないというケースも決して珍しくない。
そこで清水選手のコンセプトを伺うと、その答えは「フグもキスも丸ごと全部釣ってやる!」という、ポジティブシンキングだった。フグも掛かるけどキスにも効果があって、興味を示すことは間違いない。この仕掛けとコンセプトで「キスマスターズ」の2連覇を達成しているのだから、疑いの言葉を挟む余地は全くないだろう。
清水選手の仕掛けは、仕掛け巻き毎に小さ目の密閉タイプの袋に収納している。その理由はたった1つ、塩分による針のサビ防止である。もしも僅かでも針がサビていれば、そのフッキング力、キープ力が格段に低下するからだ。
基本となる針間隔は30cm。しかし、その日その時その場所の状況に対応するため、モトスの太さ、ハリスや針の号数、そしてハリスの長さと針間隔。そして集魚パーツのバリエーションを含めると、天文学的な種類の仕掛けを作成しなければならない。
現在の清水選手は仕事でアメリカ・バージニア州に在住。もしも釣りに行こうとすると車で6時間も要するとのことで、現地では殆ど釣行していないとのこと。その代わりと言っては何だが、針結びと仕掛作りの時間はタップリと取れるようだ。従って、バラエティーに富んだ仕掛けをストックすることができていると語ってくれた。
中~近投は大好物!
清水選手は遠投も勿論こなすが、得意なのは5色(1色=25m)以内の距離の釣りだ。その理由は、自分の目で海底の凸凹、浅瀬の存在、潮流の方向や位置などをチェックすることができるからだ。
キスの溜まりやすいだろうと思われる場所をピンポイントで探し当て、そこに仕掛けを通すことで高い確率でキスを引っ張り出すのは熟練のスキルと眼力が求められる。
遠投する場合はこのメリットがなくなり、確信を持てないまま長い距離を長い時間にわたってサビくリスクが発生するため、特にトーナメントでは中~近投を主体に考えると言う。しかし、遠投でしかキスの反応がない場合にも対応することも必要なため、極端に負荷の軽いスペックのロッドは選ばないようにしている。
また近い距離であれば、仕掛け回収のスピードが速くなり、手返しの良い釣りを展開できるメリットもある。従って波打ち際も含めた手前の釣りを練習すると、大会での成績がグンとアップすると教えてくれた。
チャンピオンだからこそ!
どんなジャンルの釣りでも、それぞれスキルの高い釣り人が居る。キス釣りでも全国には沢山のエキスパートがゴロゴロ存在している。それぞれの選手が自らの経験に基づいた、自分なりの釣り方、仕掛け、ポリシーを持ち、常に上を向いてスキルアップ、成績アップ、そして「引き出し」の追加を目指している。
清水選手曰く、「そのトーナメンターの頂点に立った人の引き出しは、誰が何と言おうと絶対的なもので、勝った者にしか語れない、チャンピオンであるからこそ認められるものがある。」
確かにキス釣りでも様々な考え方があって当たり前なのだが、同じ条件の下、同じルールで対戦するのがトーナメント。だから勝利という結果が重要で、清水選手はそのポジションを常に念頭に入れて日々努力を重ねている。
今回の全国決勝大会で、清水選手は惜しくも僅差で予選リーグで敗退した。唯一敗れたのは準優勝した水上明選手との1戦で、たったの8gの差だった。(詳しくは「【投魂】Second Cast」をご覧下さい)
その悔しさを抑えながらも、決勝戦の高井純一選手と水上選手の戦いの中から、何か吸収するものはないかと、両名の一挙手一投足をジックリとチェックしていた。この貪欲に学ぶ姿勢と、ポジティブな負けん気が清水選手の実績のベースになっているのかもしれない。
ツケエサは惜しみなく!
今回の清水選手は多数のエサを準備していた。キス釣りの定番である、ジャリメ、チロリ、アオイソメの他に、赤イソメ(オレンジゴールド)、南チロリなど、東北エリアでは通常入手し難いエサも交じっている。それらをタッパーに小分けにし、大型のクーラーで適温を保ちながら保管していた。
しかし、南チロリは南方で摂れる活きエサで、他のエサの適温が13度前後であるのと違って、常温で保管しないと鮮度が保てない。しかし気温の高い夏場は、その適温の環境を作るのが難しいとのことだった。
また、キス釣りの特効エサと呼ばれているチロリに関しては、絶妙な塩分濃度やマテリアルによる締め具合で、硬くならず引っ張ると適度な細さまで伸びる「塩チロリ」を作って持参していた。
このようなツケエサに対する思い入れは、勝利に対する意識の強さの表れではないだろうか。東北エリア、特に今大会となった秋田周辺では、ジャリメやアオイソメしか入手できないものの、それらだけでもキスが充分に釣れてしまうという魚影の濃さと環境に恵まれた部分が強い。
いくらホームグラウンドで素晴らしい釣果を出していても、いつも同じ環境で釣りをしているだけでは、違うエリアや遠方における大会では通用しない。その場にマッチした釣り方や仕掛け、そしてツケエサに至るまで引き出しを増やさなければならないと、今回の取材を通して清水選手から学ぶことができた。
I’ll be back !
大会では来年のシード権争奪戦に挑んだ清水選手は、見事にトップの釣果を残し、来年のブロック大会1回戦から出場のシード権を獲得した。
そして表彰式では、一番高い所に立つ高井純一選手を偏光グラス越しに食い入るように見つめる清水選手。「来年は必ずあのポジションに立つんだ!」という強くて熱い想いが伝わってきた。
さらに編集部には「必ず来年もここに来ます! 待ってて下さい!」と語ってくれた。その眼には早くもメラメラと燃えるような「投志」「投魂」を感じずにはいられなかった。
選手によっては企業秘密として公開したくないことも多いはずだが、清水選手は惜し気もなく見せて語って、そして実際にキスを釣ってみせてくれた。まだまだ書き足りないところだが、きっと来年のこのステージで、その雄姿を必ず見せてくれるに違いない。
清水選手、取材にご協力頂いて心より感謝申し上げます。来年また桂浜でお会いしましょう! 今後の更なるご活躍を期待しております!