釣りをしない弊社スタッフから編集部に対して「遊漁船に救命いかだを付ければ安全になるのに何が悪いんですか?」というある種反論的な問いがありました。なぜ救命いかだが「今」必要ないのか、その経緯を懇切丁寧に教えたところ「そういうことだったんですね! めちゃくちゃ分かりました!」と納得してもらえました(同じように内容を知らない方はこちらを参照)。確かに、スタッフのいう通りで事の顛末や遊漁船の事情を知らないと「単にお金がかかるのを嫌がって、大切な命を優先しないでいる」としか思えないようです。勿論、お金がかかるのも船宿には重大事態ですが、お金関係なく、根本的に客観的に救命いかだが「今」必要な理由が見つからないのです。というよりも逆に命が大切だからこそ救命いかだに違和感を覚えるのです。
国内における船舶死亡事故データ
ということで、客観的に遊漁船に改良型救命いかだの設置が今必要なのか調べるため、1つのデータを作ってみました。これを見ると、勿論事故ゼロがあるべき姿ですが、他の船種と比較すれば、遊漁船は事故数的にも事故率的にも突出して悪い数字ではありません。特に、大事故を起こしたカズワンの類となる旅客船。遊漁船より圧倒的に数が少ないのに事故数はそんなに変わりなく、当然事故率においては遊漁船よりも何倍も高いことが分かります。この点からも遊漁船と旅客船の規則を横並びにするのは早計と思えます。自動車や飛行機などの死亡事故率と比較しようと思いましたが、他関係なくとにかく遊漁船の事故を減らすことが大事なので、あまり意味ないので止めました(笑)。
では、遊漁船の死亡事故を減らす一番有効な手段は何か? 海保のデータによると、遊漁船の事故は見張り不足での衝突、乗揚が一番の原因とはっきりデータが出ています。カズワンの事故は悪天候が見込まれる中、無理をしての事故(外洋に不適合な船の使用、不整備なども複合)でしたのでそれとは違います。まあ、カズワンのような無謀な状況で出船する遊漁船は皆無でしょう。
いわゆる遊漁船の事故理由は船長の不注意によるヒューマンエラーが大きいといえます。であれば、現在5年に1回行われる遊漁船の船長を対象にした主任者講習をもっとサイクルを短くして2~3年に1回にするとか、講習内容の質を上げ、コンスタントに船長の気を引き締める、意識を高めることが有効でしょう。さらに厳しくするなら、例えば同船者2名以上が常時見張り役をするとか、各釣り座に緊急アラームボタンやレーダー(救命いかだ等より安くて実用的・有効的)を付けるなどの義務化も有効かもしれません。
「今」必要なのは事故後の救命いかだじゃなく、それを未然に防ぐことが最優先されるべきって答えは出ていますよね。どう考えても安全対策の優先順位がおかしい。海、現場を知っている海保の皆さんだって絶対違和感を覚えているはず!
東北の遊漁船登録数(隻数)
東北にはどのくらいの遊漁船があるのか? 各県遊漁船担当者に今回の省令案の経緯、遊漁船にどのような影響があるのか、問題点を話ししながら聞いてみました。
青森県、500(580)
岩手県、273(323)
秋田県、180(199)
宮城県、450(500)
山形県、133(135)
福島県、調査中
福島県は担当者不在だったため調査中ですが、東北エリアの遊漁船は現在2000くらいあると推測されます。この全てに救命いかだ、無線、発信機(計200万円以上)の設置するとなれば東北だけでも総額40億円もの初期費用が必要なわけです…。そのお金が何倍にもなって地方へキャッシュバックするならともかく、地方から吸い取られた挙句に特定の業者に渡るというのも色々勘ぐってしまいます。
参考資料:
船舶事故の統計 | 船舶 | 運輸安全委員会 (mlit.go.jp)
Microsoft Word – 2022_00_表紙 (mlit.go.jp)
index-2.pdf (maff.go.jp)
HP用【機1】【海保広報】令和4年における船舶事故・人身事故発生状況(速報値) (mlit.go.jp)