【連載】山岳遭難と装備・用具についてmodern version#3野外における危険生物とその対応(その2)

解説/佐藤浩二

前回記事で触れたクマに関して、やはりシーズンに入り山菜採りやアウトドアレジャーのみならず市街地での生活環境下でのクマの目撃や遭遇、そして被害という報道が連日、見ない・聞かないことがない。しかし、これはここ数年でいくともう避けられない自体であり、防衛策を含めてその脅威とどう隣り合わせで暮らしていくか? という考え方を改める局面に来ていると思う。ただ野外でのレジャーを嗜む上で、そのクマにばかり注意を削がれて、疎かになってしまう脅威が足元に潜んでいることを忘れてはならない。今回はクマとは対極の極小な危険生物をクローズアップして触れてみたいと思う。

足元に潜むヘビの危険性

写真はジムグリ。レアさに思わずこうして触れてみているが、自然界のヘビは触れずに静観したい

SWフィッシングでは無縁と思われる存在だが、磯場へのアプローチ時での斜面でも良く見掛けるので甘く見てはいけない存在である。余談ではあるが秋田市内(秋田駅近くの中心部)の住宅で庭石の隙間に長さ70cm、太さも4cm程あろうかという巨大なマムシが居て、駆除を頼まれた経験が筆者にはある。どこにでも居る存在であろう。

本州での毒性のあるヘビは、マムシの他にヤマカガシが挙げられる。ちなみにヤマカガシは現段階では北海道には棲息が確認されておらず、ハブは南方離島のみに棲息。日本の毒蛇はこの3種となる。また、毒蛇でないシマヘビ、アオダイショウ、ジムグリ…などのヘビは噛まれるということは相当稀であるが、こちらも実は注意を要するのは後述に触れることに。

まず毒の有無を問わず、我々が行う日中の釣りシーンで最も遭遇率が高いのが「草むら」「岩場」「沢・渓流・湖畔などの水辺」が挙げられる。ただ小型のヘビであるジムグリ、シロマダラなど夜行が強く余程のことがない限り姿を現わさない超レアなヘビも居る。こちらは見られればラッキーかも?(笑)

とりわけ、釣りのシーンでは足元はウェーダーや堅牢な作りのシューズなどでガードされていることと思うが油断は禁物。特に近年では渓流釣りでは夏場はゲイタースタイルも多く見掛けるようになり、膝下はネオプレーンの厚手のガードで覆われていても、そこから上は薄でのストッキング被膜1枚のみという状態。ヘビの牙のみならず、アブ、ハチ、ヤブ蚊の針咬をたやすく通してしまう。

とにかくヘビを始め危険生物(危機的自然状況も含め)には遭遇しないようにしたい。これが鉄則であり、そうする術は目視・予見で注意を払うしかない。不意に手を伸ばした岩場の隙間、掴もうとした木や笹など、注意なく手を伸ばすのではなく、やはり急がず慎重に注意を払う。これに尽きる。

沢伝いのアプローチでよく見掛けられるシーン。それはヘビもよく見掛けるシーンでもある

それでも万が一、噛まれてしまったらどうするか?

よく映画やドラマで噛まれたところを刃物で少し開き口で血を吸いだす…もうこれは昭和世代あるある(汗)であり、もう今の時代では非常識であることは周知のことであろう。どんな人間でも口内は完全無傷ではなく、口内炎をはじめ歯肉炎、歯を磨く際に血が滲む等、口内は自覚症状が無いにせよ血管の破損をしている可能性が多いので、先の行為は絶対にタブーである。

また、近年、登山用品店のみならず釣具店やホームセンターでも見られる「ポイズンリムーバー」なる毒を吸い上げる器具も脚光を浴びているが、こちらは使う以前にまず、器具の特性、知識(毒も踏まえて)理解がないと完全に無用の長物…。それどころか患部を更に重篤な症状に陥れさせる原因に成りかねない。そして何よりこの器具を過信しないことが大事である。

ポインズンリムーバーはあくまで主軸に置いてならないアイテムとして、まずは基本的処置を心がけるように徹したい

噛まれた場合、まず真っ先に意識してもらいたいのが、その噛んだヘビがマムシかヤマカガシか?「何者」であるのか? これをまずは把握しなければないらない。噛まれた驚きや怖さできっとパニックに慌てているのかもしれない…が、まずその噛んだヘビの種、それができなければ色や身体の形状・特徴・大きさなどでいいので認識してほしい。そのことで救急や医療機関にその噛んだヘビを伝えることで処置がスムーズに移行できる。

毒ヘビでなくても要注意!

毒ヘビでないヘビに噛まれたからと安堵は禁物である。筆者もシマヘビに噛まれたことがあるが、その時は甘噛というか細かいヤスリ?小骨?みたいなザラザラな感触があり血すら滲むことはなかったのですが、血が出る=傷が生じる場合、これは完全に医療機関に向かうことをお薦めします。

と、いうのもヘビを始め野生生物の口内・表皮は雑菌バイ菌塗れといっても過言ではありません。これは以前、筆者の知人の経験談だが、やはりシマヘビに小指の付け根近く強く噛まれたあとに翌日に赤紫に大きくグローブ大に腫れてしまった。もしかしてヤマカガシだったのか? と思いながらも医療機関に赴いて検査の結果、傷口の化膿ということで治療処置、腫れや変色が治るまで薬の服用(抗生物質)を余儀なくされた経緯があった。

また私のように甘噛であれ、ヘビに触れたりした場合は絶対に手を洗い消毒するまで徹底することも必至だ! 決して目を擦ったりも禁物です!(ヘビのみならず両生類などの表皮分泌物は更に要注意です)毒がないヘビだから安心と思うなかれ。

毒ヘビに噛まれた患部の鉄則として冷やしてもならない。そして毒素排出のために水を多く摂取する。そして何より、ポイズンリムーバーよりも重要なのが、傷口(手・腕部/脚部の場合)から心臓の間をタオル、手ぬぐい、スリング、それらがない場合、レインウェアのボトムでもいいし、ウェーダーのベルトでもOK! まずはそこを血流を著しく遮らない程度で縛り、広範囲に短時間で毒が回らないようにする…これが一番の鉄則。そして速やかに医療機関に向かわなければいけないが、この縛る行為をした場合、絶対に忘れてはいけないのが10分に1回、約30秒~1分、緩めて血流の再開は必ず行うことだ。

小さな厄介者「ダニ」の恐怖

ダニも最近の報道で死者の報告が多くなりつつある存在だ。東北を始め日本では古くから知られた最も身近な脅威が「ツツガムシ病」であり、これもダニを媒介とした厄介な症例で、昔はこの病は原因不明で妖怪の仕業とも恐れられていた地域もあった。

日本ではダニを媒介とした重篤な病はツツガムシ病が台頭だが、近年の温暖化に伴い各種のダニを媒介とする「熱性血小板減少症候群(SFTS)」が顕著になりつつあり、他にもダニ媒介脳炎、日本紅斑熱などが挙げられる。

近年、増えつつある小型~大型哺乳類、アウトドアにペットと共に赴くことで日常生活圏にも棲息範囲を拡げてきている

 

これらもヘビの記述にある通り、まずは自己防衛することを徹底するに尽きる。夏といえどやはり草地、ヤブなどに行く際は肌の露出を徹底して避け、防虫剤を併用することをお薦めする。

様々な防虫グッズがある中で、筆者が最も多用するのがこの銘柄。使用に際しては年齢制限など注意事項もある。登山用品店やドラッグストアなどでアドバイスを聞く他、その地域では何が最も売れ筋か?そこに地域特性の傾向も垣間見られるので大いに参考にしたい

それでも最悪、今回はマダニを主軸の例で記述するが、噛まれてしまった場合に絶対にしてはいけないのが専用器具がない場合は「潰さない」「無理に引き剥がさない」この2つだ。

まず、よほど釣りに夢中になってたり、移動での細心の注意や集中をしている時は気付かないが(筆者はこれです)、マダニに噛まれた瞬間は鋭利な針で刺された刺激・感触があるものだ。寝ていてシュラフに潜り込まれて噛まれた時はその刺激で目覚めるほど。なぜなら筆者が避難小屋宿泊時の経験もあり、登山中も安穏に歩いていた時に刺激を感じ、いずれも噛まれて固着される前に掃えて未遂に終えたことが何回もあったからだ。

そのシュラフに潜りこんできた実物であるが、これは小屋に棲みついてしまったイエネズミを介したものであろう。オープンかつ板の間という平穏に見える空間にすら現れる

それでも肌に取りつかれ、噛まれて固着を許してしまった場合に先述でのしてはいけない2点を徹底することが重要。医療機関での患部にメスを入れての切開での除去に努めてほしい。それまでは潰さない!手で引き抜かない!絶対にだ!

潰すことでダニに吸収された自らの血液、これはダニ胎内で汚染されたものとなり自らの体内に逆流してしまう恐れが生じる。またマダニは頭部を皮膚に潜り込ませ強固に固着する。引き抜こうとも頭部が表皮内に残ってしまう可能性が大きい。まずは噛まれてしまったら甘く見ずに速やかに医療機関に出向くのが賢明だ。

筆者の場合だが、医療機関で開切するに当たり署名を行うが、これが加入している保険で「日帰り手術」に該当し、保険料が支払われた。よって医療機関に出向くからといっても加入している保険では医療費がカバーできる場合もあるので、約款をきちんと見るか担当の方に聞く、あるいはこれらをカバーできる特約など付随させるなど、保険を上手に理解することもオススメだ。

ダニを除去する器具も活用したい

ダニの固着を除去する器具として「ダニリムーバー」なるものがあるが、これもポイズンリムーバー同様にきちんとした理解・知識がないままの使用は禁物。完全に除去できたからと言えど、それで終わりではなく、医療機関に向かいたい。やはり怖いのは潰しておらずとも傷口部からによる感染症の懸念は否めない。

あるからと言って安心するものでなく、出番がないように努めたいものである
ダニ除去器具

あとは何より、フィールドを離脱したら帰宅前に噛まれておらずとも衣類の隙間、タックルなどに潜んでいる可能性も踏まえて、乗車や家に入る前に身辺をよくチェックし、ブロアーや掃除機で入念に払うことを徹底。また帰路道中での日帰り温泉での入浴もオススメしたい。

こうして「怖い」「注意しろ」尽くしで呆れるかもしれないが、自然が両手放しに考えもなく安全安心である思考ははっきり言いたい。愚かでしかなく、それが自己完結できるから自身の責任だからという考えは傲慢そのものでしかない。日常ではなく「非日常」を楽しむ・嗜むアウトドアレジャーでは日常の常識は通用する・当てはまるものが一辺もない(あるとすればマナーや礼儀)。だからこそ魅力的であり楽しいとも思う。家族や関わる方々や機関の徒労、最悪、悲しませる結果にならないために、安全を第一の念頭に努めたいものだ。

WRITER

佐藤 浩二

日本山岳ガイド協会認定 登山ガイド[ステージⅡ]

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登山ガイドの傍ら渓流釣ガイドを展開する。北東北の民俗学、風習にも造詣が深い。

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