釣り人:佐藤文紀(シマノモニター)
地元の宮城県北上川水系をホームグラウンドに、少年の頃からサクラマスの虜となった佐藤文紀氏(シマノモニター)。それから30年以上経った今もなお同魚への憧れは強まり、各地のサクラマス河川を渡り歩く。中でもサクラマスのサンクチュアリである秋田県米代川へはシーズン中何度も足を運び、その「一期一会」を追いかけている。

ワンチャンスのタイミングを見極め、スプーニングで仕留めた初日
2024年は4月7日が最初の米代遠征となったが、短時間の日帰り釣行となり、当年の川の雰囲気を感じるにとどまった。翌週の15日からがいよいよ本格的な釣行ということで、前日の14日に現地入り。明るい時間に間に合ったことから水位や濁りなどをチェックしつつ試しにロッドを振ったところ、幸先良く2024年初の米代鱒に出逢うことができた。

その良いイメージを持ちながら翌朝を迎え、好時間帯の朝からの釣りとなれば期待感は増すばかり。第1ポイントは、4月中旬というタイミング的に遡上するサクラマスの群れ本隊が最も濃いことからいわゆる激戦区となっている中流域・二ツ井エリア。増水時に流心が当たる岩盤帯のスリットで、遡上するサクラマスが差してくるポイントを選択した。

増水時は、基本的には中層から下のレンジ中心の釣りになるが、前日の夕刻~夜間のうちに遡上し、上層に定位する活性の高い個体がいるかもしれないと、泳層が30~40cmのシマノ「カーディフMLバレット93F ジェットブースト」から選択する。
背後には山を控えており、日の出から2~3時間後に陽が当たり始める。ローライトと雪代による濁りがある状況のため、ルアーカラーはサクラマスが視認しやすいであろうアピール系の膨張色としてチャート系の(ドチャートOB)をセレクトした。


ポイントやルアーにもよるが、この時期のセオリーとしては、河川に入ったばかりのサクラマスはまだ好奇心が旺盛で、イレギュラーなアクションで騙すというよりはとにかくサクラマスにルアーの存在を気づかせ、食いやすい状態をキープすることが大事。ゆえに、ルアーの持つ波動系のアクションを活かしながら、釣り人側はたまに誘いのトゥイッチをかける程度の抑え目のナチュラルなリトリーブを心掛けている。

ポイントのシチュエーションとして、釣り座の後ろが張り出す木の枝や斜面になっているようなバックスペースが限られるため、ロッドは短めの8ft3in、シマノ「カーディフモンスターリミテッドDP83ML」をセレクト。キャスト回数を増やし、水中にルアーがある時間を多くすることを意識した。

濁りに関しては、当日の濁度(国交省濁度計レベル)は推定12~13。具体的な透明度でいうと40cm程度。一般には「やや濁りがきついな…」というレベルだが、雪代独特な深緑系であれば透明度はそれほどなくてもサクラマスには問題なく、佐藤氏自身は欺きやすいベストな状況とポジティブに捉えていた。
ルアーのレンジは、シャローランナー系で活性の高い個体がいるかチェックを入れてから反応を見て徐々にレンジを下げていく。いきなりディープダイバーなどでボトムレンジを攻める手もあるが、仮にヒットするとその1匹で場荒れし終了してしまう可能性がある。まして解禁当初は混雑し、なかなか移動ができない状況なので、上層まで活性の高い個体を誘い出したほうがその場に居るであろうサクラマスを効率的に釣ることができる。
立ち位置の右岸側に陽が当たり始める午前8時頃が1つの山場と見た。それを裏付けるように先に陽が当たった左岸側で1本釣れたのを確認した。しかし、右岸にもそのタイミングが来たものの気配はない。
そこで、およそ100mの区間に4~5箇所ある立ち位置を、シャローランナー、ミディアムディープ、シンキングミノー、ディープダイバー、バイブレーション、スプーンをローテーションさせながら転々とするが、何も反応は得られなかった。また、対岸も常時5~6人が並んで釣りをしているがその後は釣れた気配はなく、地元の釣具店の釣果情報でも釣れていない状況だった。

この状況から、佐藤氏はこの日サクラマスは何らかの原因で低活性状態のまま回遊、遡上、レンジ上昇など動いて口を使うタイミングは期待できないと判断。唯一釣れる可能性があるとすれば、居るであろう場所を集中的に狙い、前日に釣れた午後4時頃、時合い的にちょっとでもサクラマスの活性が上がってくれることだった。
佐藤氏は「定点の釣り」を決心。流芯が当たり岩盤裏にできた流れのヨレ、しかもベタ底を意識した。低活性と濁りによって、ミノーではどうしても横だけのアピールで狭い範囲でアピールする、食わせることに限界があることから、フォールという縦のアピールができ、かつ底まで確実に沈められるスプーン一択とした。
その岩盤裏にはピッチングでアプローチ。サクラマス、こと大河の米代川となれば、本流をフルキャストで攻めるイメージが強いが、あたかも佐藤氏もう1つの「顔」でもあるロックフィッシュゲームで磯際を撃っているかのようだ。この戦略で当日1回あるかないかのチャンスを手繰り寄せる。

頭を出した岩盤のやや斜め沖に着水させ、ラインをフリーで送り、確実に着底。間髪入れずにスローなリーリングを開始した直後、グッと重みを感じた。念のため一瞬の聞きを入れ、確実な魚の乗りを感じてからロッドを上流側にグッと強く入れてフッキング。

スピード感ある走り、ローリング、反転と、流れの中で暴れまくるサクラマス。おそらく今日のチャンスはもうない、絶対にバラせないという緊張感、そしてイメージ通りのヒットに心拍数は上がり、息も上がる。ある種パニックになりそうな精神状況だが、その気持ちを抑え、サクラマスを水面で暴れさせないようにロッドを寝かせ、かつ流れとサクラマスの頭の向きを把握しながら誘導するようにロッドを切り返し、焦らずサクラマスの体力を奪っていく。
確実にサクラマスとの間合いを詰め、いよいよランディング。釣り開始から約11時間、ついに美しき魚体が目の前に横たわった。

「今遡上してきたっていうよりは、岩盤のストラクチャーで休んでいた個体。夕方を迎え、太陽光の加減が今ちょうど良くなり、スプーンの縦の誘いに反応し、次にターンがかかって横の動きをした時にスイッチが入って食ってきたのだと思う」と佐藤氏。
見事なまでの初日のストーリーがここに完結した。
「後編」へ続く。
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