文/佐藤文紀、写真/編集部
1月1日に全国最速で解禁を迎えた宮城県・追波川、旧北上川。記録的な暖冬の影響か流れも乏しく、3月下旬現在までの状況としては芳しくない。それでもタイミング次第ではまとまった釣果も見込めるため、水温、気温が上がる4月のハイシーズンに期待したい。来るハイシーズンで釣果を得るためにも、まずは相手(川)の特性や今置かれている状況を把握しておきたい。そこで地元石巻在住のプロアングラー・佐藤文紀さんに両河川の特性、そして釣果へ近づくための釣り方・ライン選択を解説して頂いた。
新旧、2つで1つの北上川
降海遡上型サクラマスの河川釣りが全国最速で解禁を迎えるのが北上川下流の「旧北上川」と「追波川(新北上川)」だ。
国土が狭い島国である我が国では横方向に流れる大河は多いが、縦方向に250km程縦貫する大河は珍しく、同時に東北では最大規模の大河となっているこの北上川は類稀な存在と言えよう。北上川の場合は水源が岩手県で、海との出逢いである河口が宮城県に開いており、三陸リアス式海岸の南端である牡鹿半島の上下にそれぞれの河口が緯度違いで海と合流を果たす。
旧北上川と追波川
サクラマスの河川釣りの場合、ご周知の通り各漁協が管理しており、同時にサクラマス釣りの解禁日も岩手県と宮城県側では解釈が異なっている。宮城県側の北上川水系最下流域の2大河川「旧北上川」、「追波川」では今年はかつてのように1月1日の元旦からの解禁に戻った形となったが、同じ宮城県内でもこれら2河川以外では渓流釣りよろしくサクラマス釣りも3月1日からの解禁となっている。そのような意味では、北上川水系のうち最下流部の2大河川、旧北上川と追波川は現状極めて早期からサクラマス釣りが可能なフィールドとしてアングラーの注目を集めてきた。
旧北上川の概要
旧北上川は北上川水系下流域における、いわば“本家”であり流程はおおよそ33km。底質は砂泥のうち泥が大半を占め、冬場の渇水期には水も澄むが平年を通せば水質も平時でもステインからマッディーウォーターと慢性的に茶色い濁りがある。最上流部までは潮汐の水位変動は影響するが、最上流部までは海水は到達しない。川の周囲がヤブに覆われた区間が多く、簡単にはアクセスできないため俗にいう“竿抜け”となるポイントが多い。
追波川の概要
対して、追波川は北上川水系の治水目的でその分流となった人的整備河川であり、最上流部まで海水の行き来がある川全体がタイダルリバー。川の周囲も開けている区間が多く、サクラマス釣り場としてメジャーな区間は一部を除いてほぼ護岸化されており、川原という川原がないのも特徴だ。
水色は平時から澄み気味の濃い緑色をしており、いったん濁っても濁りからの回復は旧北上川よりも遥かに早い。底質は砂泥だが占める量は砂地のほうが多い。ナマズやライギョといった川魚のみならず、シーバスやマルタウグイ、ヌマガレイといった汽水魚は勿論、フグやダツ、稀にワカシいった海水魚も河川内で掛かることがあるほど潮汐の影響が多大に川相に及んでいる。
追波川の流程はおおよそ17km。この川のランドマークでもある北上大堰も古くは2km下流の現在の国道45号線の機能も併せ持つ飯野川の下流200m程の場所にあったことが歴史に刻まれているが、時代の移り変わりで2km上流に移動となり現在の北上大堰を成している。なお、旧堰痕はご当地では通称「根」と称され、堰痕の残骸にサクラマスが一時、身を寄せる好ポイントとしてもかねてより知られている、激戦区となっている。
そんな追波川のサクラマス遡上のカギを握るのが北上大堰の開閉で、かつては現場に行ってみたいと分からない時代もあったのだが現在は「北上大堰のようす」としてライブカメラの情報がネット配信されているので、検索すれば随時確認できるようになっている。ただし昨夏頃から追波川の濁度表示がネット配信されなくなり、次いで今年は北上大堰の開閉情報も表示されなくなっているため、現状、ライブカメラの映像で自主判断するしかないのでこの点は留意してほしい。通常稼働している3・4・5号機のゲート上部からの放水があるのが通例で、ゲート下部からの放水が伴っていれば水門が開き、ゲートが解放された、と解釈していいだろう。宮城県側で雨が降っていなくても岩手県側でまとまった雨量があったり、山間部からの雪解けの水が大量に流下をし始めると、水域全体の水位調整のため北上大堰のゲートも開け閉めするのでそのあたりも知識のひとつとして、この川でサクラマス釣りを楽しむ際には覚えておくと良いだろう。
暖冬の2024年
暖冬が報じられたこの冬は北上川上流部である岩手県側でも積雪量が少なく、2月の時点で既に渇水状態に陥っていた。そのため雪代の量も少なく、雨量もまとまらないため、3月中旬までに北上大堰の堰が開いたのは少なくとも私の知る限りでは今年はわずかに一度きり。流れが効かず水も澄み切ってしまっている他、今季は太平洋側へ回帰しているサクラマスの資源量が海に少ないこともあって1月の解禁当初より追波川も、旧北上川もサクラマスの釣果は依然低迷気味で推移中だ。
追波川から遡上したサクラマスも、牡鹿半島をぐるっと回り込んで旧北上川から遡上したサクラマスも最終的には一本の北上川となって岩手県は盛岡方面まで遡上し、その途中途中で各支流に枝分かれして生まれ故郷に向かう。森と川と海。その壮大なヤマメとサクラマスの交錯模様を紐解いていくのが、サクラマス釣りの醍醐味だ。
適水勢と共に考えたい適水温
サクラマスの場合は水温5度もあれば問題なくルアーを追う。サクラマスのルアーへの追いが活発になる、代謝が上がる水温は8~12度の範囲とされているが、溶存酸素が豊富であることを条件に水温15度までであればルアーにヒットしてくる可能性はある。
最も表面水温と下層水温は異なること、また、追波川のように海水の侵入が顕著なタイダルリバーでは比重の重い塩水は川の下部を遡上し、塩分濃度の薄い真水の強い層は川の表層~上層を流れているため、必ずしも塩分濃度は一定とは限らない。水温飛躍層によっても多少なりとも水温の差は発生すること、釣り場全体を通してみた時に“塩水くさび”がどのあたりに形成されているか、も近年の高性能なリールのハンドリング(巻き抵抗)からも体感で得られる時代になったことも、時代の恩恵といえよう。
冷水魚であるサクラマスの場合、旧北上川よりも高緯度に河口が開く追波川のほうがいくらかでも水温が低いこともあって旧来からサクラマスの遡上量は多く、対してサクラマスよりも高水温に適性が寄るシーバスに関しては追波川よりも水温の高い旧北上川のほうに多い、というのも昔からの姉妹河川間における相違である。
追波川は人工整備河川であるがゆえ川底に沈み物、つまりはストラクチャーが点々としておりそれに沿って遡上していきやすい傾向がある。対して追波川よりも川全体に流速が効きやすい旧北上川の場合には川底のストラクチャーよりも「流れ」そのものに着きやすい傾向が見られるのも、その違いだ。川に沈んだストラクチャーに重点・意識を置いて釣っていく追波川、川底に沈むストラクチャー以上に流れを意識した釣りがカギを握る旧北上川。じきに訪れる4月のサクラマス釣り最盛期に想いを馳せ、両・姉妹河川をイメージしてみてほしい。
取材協力/クレハ合繊(シーガー)