ヒラマサ。東北エリアでは、ブリよりも馴染みの薄い魚ではあるが、その暴力的な引きの強さ、食味の良さ、希少価値で、釣れたら嬉しいレアフィッシュ的存在である。
近年はこのヒラマサを表層系ルアーメインで狙うキャスティングゲームが関東以西で流行っている。東北でも日本海の山形県酒田沖などで定番化しつつあるが、太平洋側では宮城県のごく一部の遊漁船が狙っている程度。それも2〜3kgクラスをターゲットにしたPE3号クラスのライトな仙台湾スタイルであり、PE5号以上のタックルで10kgを超える中~大型を狙う本格スタイルについてはほぼ未開拓といって良い。しかし、付近の定置網にはそのようなサイズが入っており、いないわけではない。
「やってみなければ分からない」
そんな釣り本来の楽しみを抱きながら、バリバスフィールドテスターの椙尾和義さんが20キロ、30キロの夢のようなサイズを求めて来宮。塩竃市・釜の淵の翔英丸に乗りヒラマサキャスティングにチャレンジした。
椙尾さんは15年前のヒラマサキャスティングの黎明期からやり込んでおり、千葉県の外房エリアをホームグラウンドにしている。同地は激戦区でヒラマサ自体もスレているだけに、その分様々な引き出しを持っている。今回初めてのエリアだが、様々な経験をきっと活かし何らかの答えを見出してくれるに違いない。
本気のタックルで挑む!
見かけはほぼ一緒でも中層回遊系のブリとは異なり、ヒラマサは根に着くことが多い。しかも、スプリンターと呼ばれるほどの泳力を持つため、最初のワンダッシュで一瞬のうちに根に突っ込まれる。当然水深が浅いポイントほどラインブレイクのリスクが高まる。これに対抗するにはタックル強度を上げるしかない。上手く良い所にさえ走ってくれれば…が通用しないターゲットだ。
椙尾さんが今回用意したタックルは主に3セット。
【①根がきつくない、小~中型用】
ロッド:シマノ「オシア フルスロットル83M」
リール:シマノ「ツインパワーSW10000HG」
ライン:バリバス「アバニ キャスティングPE SMP[スーパーマックスパワー]」5号300m
リーダー:バリバス「プロトモデル」100Lb
ルアー:小型のフローティングペンシル。「スギペン160F」「別注ヒラマサ160」「ヘッドディップ140」など
【②オールラウンド、中~大型用】
ロッド:シマノ「オシア フルスロットル83MH」
リール:シマノ「ステラSW14000XG」
ライン:バリバス「アバニ キャスティングPE SMP[スーパーマックスパワー]」6号300m
リーダー:バリバス「プロトモデル」150Lb
ルアー:「別注ヒラマサ190」「ヘッドディップ175」「シンキングペンシルプロト150」など
【③激流、激浅、大型用】
ロッド:シマノ「オシア フルスロットル83H」
リール:シマノ「ステラSW18000HG」
ライン:バリバス「アバニ キャスティングPE SMP[スーパーマックスパワー]」8号300m
リーダー:バリバス「プロトモデル」180Lb
ルアー:②と同じ、他、「スギペン185F」「別注ヒラマサ220」「ヘッドディップ200」など
以上の3セットで、ルアーサイズ、水深、想定されるヒラマサのサイズ、風、潮などを考慮しながら都度最適なものをセレクトする。
当日は北東の風が強く、午前中は風裏となる牡鹿半島南側の田代島周辺からスタート。水深10~20mライン、岩礁帯で起伏の大きなエリアをドテラで流していく。風裏とはいえ、海面は波立つ状況だが、これはヒラマサにとってはトップに出やすく好都合だという。
小雨が降る中、ひたすらキャストを続ける椙尾さん。「当たり前ですが、とにかくルアーが水面、水中にある時間を長くすることが大事です。ゆえに、船を流している最中にルアー交換することはあまりなく、とにかくロッドを振り続けます」。
ヒラマサキャスティングでは、トップ系ダイビングペンシルを使ったダイビングジャークが一般的だが、今回椙尾さんが使用しているルアーはどうもそれとは異なる。「近年、海水温の上昇でヒラマサのベイトも変わってきているせいか、これまでの一般的なルアーでは反応しづらくなっていると感じます。その状況下で、表層下10~20cmを泳ぐ水平浮きのペンシルへの反応はかなり良いと感じています」と椙尾さん。
田代島周辺では1回トップに小型が出たくらいで反応は鈍い。そこで昼前から風が落ち始めたタイミングで、本命視する牡鹿半島北側のポイントへ向かうこととなった。
水深20m付近から5m程の浅場まで船を流していく。流し終わり間際、足下で水深9mの所から沈み根が黒く見える水深6m前後のポイントへキャストし、アクションを開始したところ水しぶきが上がると共にヒット! 2kgクラスの本命、ヒラマサをキャッチした。
次の流しでも1周り大きい3kgを追加すると、このあたりの時間帯が時合いだったのか、1時間後、潮がさらに動き始めたタイミングだった。
沈み気味のプラグが見えなくなったその瞬間、大きな水柱が立った!
「出た! デカい!!!」
一発目は乗らずも、連続でもう一度水しぶきが上がると、椙尾さんはその手応えを確認した後、フッキングを決めた。
ギュルルルーー、ドラグがうなる!
本格的ヒラマサキャスティングの醍醐味が今まさにこの宮城のフィールドで繰り広げられている!
椙尾さんはあくまで冷静に対処。船と魚が走る方向、スピードを把握、読みながらミヨシで立ち位置を先回りで変えつつ、確実にリフトアップし、その距離を詰めていく。
そしてついにキャッチしたのは8kg近い良型。
宮城でも狙ってこのサイズが釣れるのだ。
「ボートレコードです!」と船長も喜んだ。この1本がヒットしたのは水深7~8mのポイント。PE3号クラスの仙台湾スタイルではすぐに根に巻かれて獲れていなかったかもしれない。
「実は、この1本が食う前に出た10kgを超えるヤツも確認しました。今回全体を通して潮があまり動いていなかったので魚の活性自体はあまり高くなく、未開拓ゆえの警戒心の薄さによってこれだけの反応があったと思います。潮がそれなりに動いていればおそらくはかなり期待できるのではないでしょうか」と感想を述べた。
勿論、椙尾さんの経験、テクニックであることは間違いないが、PE5号以上のタックルの必要性、そして本格的なヒラマサキャスティングの可能性を十分に感じる貴重な1本となった。