筆者/佐藤浩二
はじめに…。デジタルが跋扈(ばっこ)するこの世の中であっても、それらの世界は実はほんの僅かであり、それらに包まれている僅かな世界の外は、そのデジタルで検索さえすれば一応それらしき答えは検索できるが、真実は曖昧な森羅万象に支配されている世界なのである。その水面の底に、森の奥に、波音しかしない夜闇の海原に…蠢いている‶それら‶の声や姿を感じる時はきっとすぐにあると思います…。釣り東北ウェブ夏休み特別企画として、釣り場・フィールドで起こる、心霊・不思議な怪談を全6回でお届けしたいと思います。
子供行事に紛れ込んだ怪
20数年前、山に通じている縁があり、自然に関わる施設で指導員をしていた時期があった。GWや連休、夏・冬休みなど県内の小中学生を集めてキャンプや登山などの行事に随行するのが主な仕事であったが、そこで子供達たるゆえんだろうか? 彼らから不思議なものを見た、聞いたとかの話は尽きなかった…。
GW、カタクリやキクザキイチゲといった春の植物はもう時期も折り返し。杉林の中や山の北側、日陰などの斜面はまだ充分に雪が残る里山を、ひと山隔てて隣町の地区まで約8kmの山道のトレッキング企画の時の話である。
トレッキングは各班(8人前後)毎にリーダーは教員を目指す大学生のボランティアサークルのメンバーが担い、私を含め数人の指導員はあくまで全体を見渡しながらの随行という形が常であった。この日は天気は春の陽気で本当に暑くも寒くもなく虫も全く出ず快適そのもののトレッキング日和であった。しかし歩き始めて目的の山頂前の広い原野部で大きな休憩を摂り、さぁ再び出発! という時に最初の異変が起こった。
とある班が点呼をなかなか終えられず学生と子供たちがやんやと賑やか?(切迫した感じではなく笑いも交じえて)な声が絶えないのである。その班は子供が8人の班であった。どうしたの?と尋ねると、学生が困惑した表情で「点呼を取ってるんですがね、どう数えても9人なんスよ」と。最初、自分は「え?」と思いながら、ひい・ふう・みぃ…と数えると8人である。その瞬間、子供たちは「ほらぁ!Y先生(学生の名前)8人だよぉ」と笑いが上がる。「ええ~?」と、納得いかない表情のY君であったが、その時は私が点呼し確認ということもあり出発したのだが、歩き始めて暫くし、また妙な話が耳に入った。
「佐藤さん、佐藤さん」今度は女性がリーダーを務める班の近くを歩いていた同じ指導員のH氏なのだが、その女性リーダーの班は7人の編成のはずなのに8人居たことに気付いたと耳元で囁くのである。「Hさん、さっきのY君の話聞いてたべ? 止めて下さいよぉ」。正直、普段から真面目なところでも冗談しか言わない、しかもいかにも本当という感じで話し、最後には梯子を外すかのごとく「冗談~♪」と〆る氏である。きっと担がれているんだろうと思い、自分としては普段でも真っ当に相手をしていないのである。
そのH氏が、しきりに全体の数を一生懸命数えようとしているのだ(この時は児童だけで150人程の集まりであった)。道も本日の昼食の場となる山頂に至り、春の陽気の中、みんなで準備されていた昼食を貰い(ここまでは車道が通っており、給食センターが手配したワゴンで弁当をピックアップして職員が待機していた)食べていたのだが、職員が困惑の声を漏らす「予備で準備していた弁当が5個余るはずなのに4個しか余ってない」と。流石にこの時点で、私も学生も随行の職員や指導員達の間に寒くなる何かが背中を走るのを感じた。ただ、この弁当、食事を終え、殻を回収する際に児童が「これ脇にありました」と手付かずの弁当を持ってきたのだが、それを誰がそこに置いたのかは分からない。他の班の人の弁当かなと思っていたという。
そして不思議の決定打は昼食を終えて出発の時に起きた。さっきのY君ではない別の班が、また賑やかに出発しないのである。リーダーのU君「数を数えたら1人多いんです。で、子供達に番号を点呼させたんです。8人のはずなのに最後の子が9って。途中に誰か居るんですよ」と、少し取り乱しながら訴えるのである。
しかし、今、私や他のスタッフが数えてみると、やはり8人なのである。その山頂を境に隣町へとなり、その下りの道中では何事も騒動はなかったのだが、夜、職員が集まり打ち上げをしていた際に、地元出身である給食センターの高齢の女性がこう告げた「あいや~あこなば。神隠しの森だものなぁ。昔、おいがたワラシダッダアデにオナンコ入っでサ、見つからながっだもの」(訳:ああ…あそこなら神隠しがあった山ですもの。昔、私達が子供だった頃に女の子が入ってね、見つからなかったもの)。その言葉に一同、シン…とした。