開催に黄色信号?
令和6年7月7日(日)、秋田市の桂浜にて、日本サーフキャスティング連盟主催「NSCF杯山形地区予選」が開催された。天気予報によると雨風が強い悪天候が予測され、開催自体が危ぶまれる状況だった。
当日の午前4時、大会本部となった海の家「そよかぜ」には、東北各地は勿論のこと、新潟、茨城、千葉からも含め総勢37名の選手が受付を行った。悪天候でキャンセルした選手も多い中で、多数の選手が参加し、キス投げ釣りへの想いの強さを改めて実感した。
大会運営スタッフは、遠方から参戦されているキャスターがいらっしゃること、雷の危険性は高くないこと、賞品や協賛品も数多く準備されていることなどの要素を鑑み、安全を最優先として開催を慎重に協議した。
集まった選手の中からは「どんな厳しい状況(雷を除く)であっても、それにアジャストして答えを出すのがトーナメンター」との熱い声もあった。
やがて開会式の定刻を迎え、選手とスタッフは屋外に集合し開会式が行われた。
天候の急変や雷の発生を察知した場合、各選手が自らの判断で即時撤収することを前提とし、競技時間を1時間短縮して実施することがアナウンスされた。
こうして様々な状況を加味して出した末の結論に、選手は全員納得して競技のスタートを迎えることとなった。
大会ルール
今大会は次のルールで実施された。
【競技時間】午前5時30分開始、午前8時までに検量所に帰着していること
【競技エリア】特に設定せず(徒歩で移動できる範囲内)
【競技方法】竿1本の投げ釣りに限る
【ツケエサ】自由
【仕掛け】自由(針数の制限なし)
【審査方法】釣り上げたシロギスの総重量で順位を決定
【全国決勝進出】山形協会員枠3名、他協会員枠2名(それぞれの上位者を認定)
今大会の上位者には、10月末に神奈川県大磯海岸で開催される全国決勝大会への出場権が与えられ、その権利を目指す選手達の熱いバトルが始まった。
厳しい…
編集部も選手として参戦。まずは本部から海に向かって左側にある、流れ込みを目指して移動を始めた。いつもならすぐに到着する位置にある流れ込みなのだが、歩いても歩いても辿り着けない。恐らく水量の変化に伴って、海に流入する位置が変化しているのだろう。
とりえずクーラーを置いたのは目的地よりもかなり手前で、押し寄せる波の中で微かにワンドに見える場所。よく見ると少しだけ波が立ちにくい箇所があり、そこを狙って仕掛けを通してみることに。
波による仕掛け絡みのリスクを考慮して、10本針仕掛けでスタート。1投目は軽くキャストして4色(1色=25m)付近から探ろうとするが、強い向かい風の影響で2色程度しか飛んでいなかった。
4投してみてもアタリは皆無。しかも右方向への潮流が速く、隣の選手に仕掛けを絡ませてしまう失態…。そこで、右側の選手との間隔を空けようと考えて、大きな場所移動を行った。1箇所で2~3投した上で、流れ込み方向に移動を繰り返す作戦。ところが生体反応は1回もなく、ゴミが引っ掛かり釣りが成立していなかった。半分諦めながら移動していると、小さな河口が目に入り、やっと目的地に到着したようだ。
起死回生!
仕掛けを投げる前に波の立ち方を観察していると、流れ込みの潮下になる右側に波が立たない淀みらしきゾーンがあることを発見。距離にして1~2色なので、確実に攻められそうだ。
1投目は強風を受けたミチ糸がスプールから一気に放出され、バックラッシュのトラブルが発生。残り時間が60分を切っているタイミングで、かなり焦りが生じたものの、慎重に予備スプールにチェンジして再開。
すると淀み部分と思われるゾーンで明確なアタリ! この日のファーストヒットだけに、たとえフグだろうがメゴチだろうが、波打ち際でバラさないように慎重に取り込んだ。
波間から姿を現したのは、15cm程度の本命シロギスだった。
その一部始終を移動してきた宮本選手(宮城)にガン見され、川を挟んだ位置でお互いが並ぶようになった。すると宮本選手が両手を上げて歓声を上げているではありませんかっ!
メモリアルショットになると確信した宮本選手は、ポーズを決めてから「これで権利が取れたらいいんすけどね~♬」と、全体的に厳しそうな釣況を予測したのか、会心の1匹に沸き上がる嬉しさを隠しきれなかった(笑)。
キス釣りのトーナメントでは、釣れない時のこんな1匹が勝負を分けることはよくあること。その後は大粒の雨が叩き付けるようになり、追い打ちをかけるように風もその猛威を増してくる…。
残り時間はあと30分。10分前には帰着して検量の様子を取材しようと考えていたので、次がラスト1投と決意。
その1分後、微かな違和感を覚えてゆっくりとリーリング。波打ち際に近付いて丁寧に取り込んだ編集部の仕掛けには、推定11cmのシロギスが付いていた。
これで2匹目。もしかしたら…という想いを抑えながら、軽快な足取りでルンルン気分で検量所に向かう編集部であった(笑)。
8割がノーフィッシュ
検量所に到着しキスを提出すると、「おお~っ!」と驚いたような声が上がった。どうやらたったの2匹24gながら、現時点でトップの重量だったようだ。
その後は取材の準備のため車に戻って着替えをしたが、下着の中までビショ濡れの状態…。タオルで全身を拭きながら、いかにハードな釣りだったかを身に染みて感じていた。
今大会で釣果があったのは37名中6名のみで、80%以上の選手はアタリを感じることはできなかった。それだけ厳しい釣りを強いられたが、そんな条件下で釣果を出した選手がそのまま上位となった。
大健闘の宮本選手は、貴重な1匹を確保したものの、わずか1g差で全国大会出場の権利に手が届かず無念の涙を流した。この悔しさは次回の宮城地区予選(9月15日、秋田市桂浜で開催)で晴らしてくれることだろう!
最終結果は次の通り。(敬称略)
【優 勝】斉藤 英輝(山形協会) 2匹 33g ※
【準優勝】花岡 昭 (山形協会) 2匹 24g ※
【第3位】松嶋 信也(山形協会) 1匹 15g ※
【第4位】田中菜津美(宮城協会) 1匹 13g ◇
【第5位】山口 清一(宮城協会) 1匹 11g ◇
【第6位】宮本 昌範(宮城協会) 1匹 10g
※印の選手は山形協会枠で全国大会出場権を獲得
◇印の選手は他協会枠で全国大会出場権を獲得
表彰が終わった後は、お楽しみ抽選会。今回の目玉賞品を獲得したのは参加選手中最年少の鈴木刀選手(宮城協会)。キスのアタリは引けなかったが、最高の食材をゲットして会場を沸かせた(笑)。
最後に日本サーフキャスティング連盟副会長金川勝也氏より総評を頂き、「雨中決戦」となった山形地区予選は幕を閉じた。
悪条件の中で最後までキスからのシグナルを探り続けた選手の皆様の姿勢は尊敬に値する。プライベートであれば竿さえ出さずに終わるところを、2時間半にわたって集中を切らさずに続けたことは、きっと将来的にスキルアップとなって大きな「引き出し」となって戻ってくるに違いない。
このような条件の中で大会を運営し、安全を確保した上で開催を決断してくれたスタッフの皆様、そして遠路はるばる秋田の海に足を運んでくれた他県の選手の皆様には、心から感謝を申し上げたい。